
膨張する製品:防耐火におけるヒルティテクノロジーの秘密

膨張する製品
防火区画における壁および床を貫通するケーブルやパイプの区画貫通処理は、新築建物の設計、仕様、建設工事、および建物の継続的なメンテナンスを担当するすべての人にとって重要な勘案事項です。この課題を解決するには、特別に承認または認定されたシステム(材料)を使用する必要があります。ここで紹介するソリューションは、“膨張”が核となる技術に基づいています。これがどのように機能するか、その秘密とは何か、そして現代の建築においてなぜそれが重要なのかについて解説します。
英語で膨張を意味する言葉 Intumescence は、ラテン語の「intumescere」が起源です。この用語は医学に由来し、炎症の下で腫れることも意味します。化学的には、熱の影響による特定の物質の“膨張”を意味します。一般に、火には、燃料(Fuel)、酸素(Oxygen)、熱源(Heat Souce)など3つの構成要素が必要で、この3つの材料が科学反応を起こし発火すると、炎、ガス、煙を発生させます。そのため、燃料、酸素、熱源のいずれかを遮断することにより、消火することができます。
火災を回避、遅延、または消火するために基本的な防耐火原理があります。火を消す幾つかの方法の中で、重要な要素は熱源への影響を減らすことで、ここでは、防耐火に関して膨張する製品が重要な役割を果たします。まず、2つの異なる膨張原理が存在し、はじめは膨張反応による圧力です。熱にさらされると材料が膨張し、圧力を加えて目地や隙間を埋め、実際の開口部を閉じます。次の原理は膨張による断熱です。膨張した材料は、断熱(絶縁)を目的とする炭酸フォームを発生させ鋼線やケーブルを保護します。
テクノロジー:仕組み - 化学の世界への誘い
いわゆる膨張システムは、「理知的」な素材構成です。膨張システムは、火事による温度の上昇を予見するため、周囲の環境における温度の変化に反応します。特定の限界温度を超えた場合、第1膨張ステップによりボリュームのある層を生成し、周辺にある建材などが固定されます。次に、膨張グラファイト、未膨張バーミキュライト、またはケイ酸ナトリウムなどの主な膨張材料が第2膨張ステップを開始する際の膨張温度はさまざまで、150℃から350-400℃に達します。膨張は大部分が大きな塊りに膨らむ傾向があり、外側に700%以上にも及ぶことがあります。
図2-1 膨張材:ヒルティファイヤーストップ(1~2時間燃焼)
図2-2 防火区画の燃焼度合い
膨張システムは、いくつかの重要な温度依存化学反応に基づいています。ほとんどの膨張性材料は、さまざまな成分の混合物です。その成分は、ポリマー基本成分とバインダー剤、ガス生成剤、炭素源、および他の成分の反応を誘導するいくつかの触媒などです。膨張剤はコーティングに組み込まれるか、プラスチック材料または他の材料化合物に直接組み込まれます。つまり、配合は、触媒、炭化剤、発泡剤の3つの基本的な成分に基づいています。多くの受動的消火システムの重要な原材料の1つは、バーミキュライト(鉱物の一種)です。これは、拡張可能な微粒子として、耐火リング、シーラント、ブロック、またはその他のシステムの発泡剤として機能します。
図2-3 重要な原料の一つ:バーミキュライト
図2-4 顕微鏡で見た発砲グラファイト材
一連の反応連鎖は次のように説明できます。温度が上昇すると、酸成分が放出され接触脱水が起こり炭素は放出されます。並行して、結合する役割の熱脱水によってガス物質が生成され炭素源を発泡させます。熱分解と燃焼の間に発生する一連のプロセスには複雑な熱伝達プロセスが行われており、炭素が膨れてセル構造内に発泡しています。このフォームは、下の層の保護として機能する一種の絶縁体でもありアプリケーション全体に基づいて、化学的および物理的相互作用の性質を考慮して、望ましいタイミングでシームレスに適合させることが重要です。これらのプロセスはすべて、さまざまな反応速度で非常に短時間に発生します。これらの反応速度は、炎の挙動に大きな影響を与えます。
図2-5 膨張層システムの反応機構
(1)基本的な状況 (2)火災/温度の影響と保護層の作成(反応層と膨張発泡層、それぞれの炭化)
これらのプロセスが脱水後に早すぎた場合には、最終的な効果がなく絶縁もされていない状態となります。さらに膨張が遅すぎると、膨張が起こる前に炭素が固まります。よって、火災規格と温度規格は時間に依存するため、時間は重要な要素となります。このテクノロジーの利点は多岐にわたります。多くのスペースを必要とせず、施工は簡単です(スプリンクラーシステムのようなアクティブ防火システムとは対照的)。建物の構造への影響も非常に限定されているため、これらの膨張システムは、防耐火設計上でも非常に効率的です。
図2-6 膨張の状況、燃焼試験中の耐火リング
図2-7 燃焼試験後に反応した膨張耐火材
なぜこのテクノロジーが防耐火の分野で使用されているのでしょうか?
建物はどの国でも建築に関連する法に従って設計する必要があり、火と煙の広がりを抑えるため特定の時間内に区画内で火を封じ込める必要があります。しかし、制御されていない火はすぐに人命や財産に危険を及ぼす可能性があります。主なリスクの1つは、プラスチックパイプ、可燃性の断熱パイプ、ケーブル、ケーブルトレイなどの貫通材料で、これらは耐火壁や床を通過しています。素材の種類によって反応が異なります。それらの多くは、火災の場合に軟化し、溶けて、ほとんど燃え尽きます。つまり、耐火壁の領域内で溶けたり燃えたりする貫通材料は、穴、隙間、または単に漏れを作りだします。また、溶融プロセス中に、多くの場合、基板を破壊または損傷する可能性があります。火災のいわゆる煙突効果(高温ガスの圧力と気流)のような追加の影響により、耐火壁または床が破壊され、新しい予測できない危険が発生します。これは、パイプのサイズ、パイプの厚さ、可燃性の材料と貫通材料の数、開口部のサイズ、および異なる貫通材料とシール端部間の距離の制限に応じて、変化し、悪化することがあります。
図3
パイプが溶けてしまうと、ある段階でパイプは陥没(変形)します。その隙間が空気の通路を作ってしまいそこからパイプと防耐火材料の間に隙間が生じます。図3より、何かがこのプロセスを迅速に制限する必要があります。これは、いわゆる受動的防耐火材料の用途領域です。なぜ受動的なのでしょうか?これらのシステムは、建物の構造に統合されており、防火区画の間を通過する火災を抑制します。防耐火は、特定の領域に閉じ込められた火を効果的に維持するように設計されています。したがって、壁または床の構造に直接組み込まれた火災の場合に膨張または拡大することにより、貫通材料の溶解、燃焼、または移動によって引き起こされる破壊プロセスを停止させるために役立ちます。
このテクノロジーをメーカーはどのように使用するのか - 課題(挑戦)
多くの防火製品は膨張技術を利用しています。これらの製品は圧力で膨張し、実質的に火道を絞ります。そのため、これらの製品はパイプやケーブルシステムの溶融によって生じる隙間や穴を自動的に埋めます。また、温度規定(条件)に合格するために断熱部を形成します。しかし、これが全てではありません。多くの異なるパイプ、ケーブル、断熱材が存在するため、反応はまったく異なります。特定のパイプアプリケーションの開発とテストに関しては、パイプの材料、パイプの直径、壁の厚さに大きく依存します。したがって、防耐火ソリューションにおけるメーカーにとっての課題は、さまざまな配管をカバーできるだけでなく、さまざまな材料(パイプ、ケーブル、多種形状)もカバーできるような耐火材料を開発することが重要です。これには多くのシステムをテストして承認する必要があるため、実際には難しい課題です。適切なソリューションを提供できるのは、建物内の既存のアプリケーションを調査、開発、およびテストできるメーカーだけであり、適切でコンプライアンスに準拠し簡単な設置(施工)も考慮されています。膨張成分の正しい配合の秘密は、可能な限り多くの異なるパイプ材料をカバーするために使用されるコア技術です。時には優先順位について検討も必要です。よって、多様なシステムが存在しており、さまざまな開口部サイズや材質のパイプとサイズをカバーし、可燃性パイプとケーブルおよびケーブルトレイまたは断熱材などにも対応しています。
図4-1 5分加熱試験後の状況:非延焼側に耐火リングの有無による違い
図4-2 正しく密閉された2インチプラスチックパイプ(UL認定済みシステムHilti FS ONE:海外仕様)
その他にも重要な基準としては、適切なハウジング(囲い込み処理)または留め具があります。製品は、耐火リングや耐火ラップ(包帯状処理)など「壁」用途向けに存在します。ソリューションが異なる理由は、実際にテストした用途が異なっているためとなります。ハウジング内の膨張材料(耐火リング)は、膨張(拡張)を正しい方向に導き、すべての膨張材料が穴の閉鎖にも使用され、溶融したパイプ部分の開口部へ必要な全方向の圧力を与え周辺を保護します。
図4-3 壁に取り付けられた、防耐火ソリューション
壁内ソリューション(耐火ラップ)の場合、壁自体がフレームを形成するため、材料と圧力を正しい方向に導きます。これを低減させてしまう場合があり、その原因として火災の熱が材料に到達するのが遅くなり、膨張材料の反応に影響を与えてしまうことです。加えて、耐火ラップは膨張材料のスペースが限られているため、多くの場合、すべての直径や材料をカバーできません。
ヒルティは、防耐火技術におけるグローバルマーケットリーダーです。厳格なテストと製品開発への貢献は、証明された信頼性と卓越したサービスで、建物をより安全にし、人命を救い、資産を保護することに役立ちます。この記事で説明する技術のほかに、ヒルティは独自の研究開発により、使いやすい防耐火ソリューションや最先端のシステムを提供することを目指します。最後に、多くの国における独自の専門的な技術サポートとともに、仕様決定者と施工者が適切なアプリケーションに適切なシステムを正しく選択し、基準に準拠しテストされたソリューションを正しく選定して頂くことを期待しています。
出典:
Sebastian Simon、「Untersuchungen zur systematischen Entwicklung von intumeszierenden Hochleistungsbrandschutzbeschichtungen“、FakultätfürLebenswissenschaften
der TechnischenUniversitätCarolo-Wilhelmina
Sebastian Simon、「膨張性高性能防火コーティングの体系的な開発に関する調査」
ライフサイエンス学部 カロロ・ウィルヘルミナ工科大学
Heinrich Horacek and Stefan Pieh, “The importance of intumescent systems for fire protection of plastic materials”, article first published online: October 2000.
Heinrich HoracekとStefan Pieh、「プラスチック材料の防火のための膨張システムの重要性」、最初にオンラインで公開された記事:2000年10月
M.Lewin, “Physical and chemical mechanisms of flame retarding of polymers”, Polymer Research Institute, Polytechnic University, New York
M.Lewin、「ポリマーの難燃化の物理的および化学的メカニズム」、ニューヨーク工科大学ポリマー研究所
その他の情報源と写真:Hilti株式会社内部資料、シャーン、リヒテンシュタイン